初めての告白


ウソップが仲間になった夜。
大宴会をしたゴーイングメリー号は静かに波の間を漂っていた。
船員が少ないため、夜間操行はムリとナミが言ったためである。
いかりを降ろし、明かりも最小限の船は闇に溶け込んでいた。
「・・・あとは、ルフィだけと。」
潰れたウソップを男部屋へ運び、ナミを手伝って後片付けを済ませたゾロは、 甲板に戻った。
「・・・なんだ、ルフィ。気付いたのか?」
先ほどまで甲板にだらしなく伸びていた姿を、船首に見つけ、ゾロは足を向けた。
呼びかけにも応えず、ただ海を見ているルフィの姿に、首を傾げる。
「どうしたんだ? ルフィ。なんかあったか?」
ルフィの視線の先に目を向けるが、何も無い。
「おい、ル・・・」
「なあ、ゾロ。」
振り返ったルフィに言葉を遮られ、ゾロは黙って、ルフィを見た。
無言で続きを促す。
「俺さ。真面目に考えたんだけど。やっぱ、ゾロのこと、好きだ。」
「・・・は?」
一瞬キョトンとしてゾロはルフィを見つめた。
それがどうしたというのだろう?
嫌いなヤツを船に誘うのだろうか?
「そいつぁありがとよ。でもなんでいきなりそんなこと言い出すんだ?」
首を傾げていると、ツイッ・・・と近づいたルフィに軽くキスされた。
「んなっ・・・」
「好きは好きでも、こういう好きなんだ。」
思わず惚けて、ゾロはルフィを凝視した。
相手を間違っているんじゃないだろうか。
「おい、俺はナミじゃねえぞ。アイツはフリーだから安心して狙うなら狙えよ。 変な牽制してんじゃねえ。・・・まあ。アイツはやめておいたほうが無難 っちゃ、無難だがな。なんか企んでやがる。」
ヒュッ・・・と音がして、ゾロは無言で浅く薄く切れた頬の血を舐め取った。
「・・・ゾロ? 仲間疑うようなこと言うのは、いくらおまえでも、許さねえ。」
「悪かった。」
ルフィは仲間と認めたら、絶対に疑いを持たないと言うことか。
・・・まあ。だからついて行ってもいいと思ったのだが。
いきなり背後から襲われるのはたまったもんじゃない。
口には出さずに、自分が、気をつけておいたらいい。
この船の船員数くらいなら、助けが無くとも守り抜ける。
「・・・でも、やめておいたほうがいいというのは、他にも理由があるぜ。 仲間だったら、あんまり女ということにこだわらないほうがいいからな。 これから仲間をもっと増やす上で、そういう目で見られちまうし。」
「ゾロ、おまえ何言ってんだ? 俺が好きなのは、おまえだぞ?」
「なんだ、冗談じゃないのか? 悪いな。俺にはそっちのケはねえよ。」
どうも剣士というだけで、そういうケがあると思われがちだが、 そんな気はない。
だいたい、世の中に女がいるのに、どうして男に走るのだろうか?
「悪いな、ルフィ。溜まるのはわかるが、次の港まで我慢しろよ。 俺は便所になる気、ねえよ。仲間にはなったが、そういう約束じゃなかった はずだ。」
「俺は欲求不満の相手に、ゾロを選んだんじゃねえ。」
まっすぐ射抜くような視線を向けられて、ゾロは思わず一歩下がった。
「いますぐどうこうとは思わねえよ。ちゃんと伝えておこうと思っただけだ。 ゾロはこの船から降りられねえしな。絶対好きになってもらう。」
「お、おい。何勝手なこと言って・・・・んっ」
避ける間が無いくらい、すばやい動作で詰め寄られて、唇を塞がれた。
「んぎっ・・」
舌を侵入させようとするルフィの唇に噛み付いて、ゾロは飛び退いた。
「ふざけんじゃねえッ。」
切れた血を吐き捨てるルフィを、まっすぐ見つめてゾロは叫んだ。
「ふざけてねえよ。」
静かなルフィの声に、ゾロも冗談じゃないとばかりに、ルフィを睨み付けた。
「なお、悪い。・・・煩わしいのはごめんだ。好きな奴をつくるつもりも ねえ。夢を達成するまで、港の商売女で十分だ。」
ふわりとルフィが笑った。
「ゾロ? それじゃ強くなれねえぞ。まあ、いいさ。さっきも言ったケド、 時間はたっぷりある。俺は諦めねえ。」
横をするりと通り過ぎて、男部屋へ戻るルフィの後ろ姿を ジッとゾロは見つめた。
「・・・余計なお世話だ。」
選択権が無かったとはいえ、大変なヤツの船に乗ってしまったのだろうか。
「まあ、いい。諦めてもらうさ。」
ため息を吐いて、ゾロも部屋へ戻ることにした。
まだまだ、旅は始まったばかり・・・。

−完−





【独り言】
ルフィのゾロ奪っちゃうぞ、宣言。
・・・書いたつもりですが、なんのことやら(^^;)
2001.4.11.ten.



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