新しい刀を思う存分振るうのは楽しかった。
月夜の光もほどほどに。
存分に寝た身体は力がみなぎっている。
「いい誕生日になりそうだぜ。」
少しくらいのハメ外しはいいかと。
勝手に思っていた。
昼間の航海で皆疲れている。
それを理由にして、ただ刀を振るいたかっただけなのだ。
新入りたちの斬れ具合を、大物に行き当たる前に確かめておきたかった
のもある。
だからナミに言われて文句を言いながら走り出したが、
やっぱり悪い気はしなかった。
少しは骨のある連中ともやりあってみたかった。
だが・・・・
「ゾロっ。俺はおまえを許さねえっー。」
少し前まで、好きだのなんだの。
呟いていた人物から、そんな言葉を聞かされるとは思っても見なかった。
ましてや・・・・
「ああ・・・死ね。」
聞き違えたかと思った。
言葉がこんなに伝わらないものだと。
思わなかった。
届かない。
・・・聞く耳も持たない。
怒りで目の前が真っ白になって・・・・
そして。
ストンッと何かが落ちた。
まるで自分の体では無いみたいに。
考えることを放棄した身体は、するりと戦闘モードへと
いとも簡単に入ることができた。
がっきりと組み合う。
「武道と剣道。どっちが上かケリつけよう。」
余分な考えが吹っ飛んだ頭が命令を下す。
いいチャンスだと。
こんなことでもない限り、この船を降りないかぎり。
戦うことは無いだろう。
言葉より何より。
刀を。拳を交えたほうが、何かしっくりと来た。
もう何が原因でこうなったかはどうでも良くなった。
きっと、きっかけがコレだっただけで、
ルフィとこういう機会は来る運命だったのだろう。
全ては大きな流れに導かれているのだろうから。
「いいかげんにしろっ。」
突然のナミの乱入で、決闘は中断されたが、
いい機会だった。
ウイスキーピークを出航して。
ようやくホッと一息吐く時間が出来た。
陽の光の中、船尾でゆっくりと一人で酒を傾ける。
「なんだか・・・つかれたな。」
ここ数日、いろんなことが起こり過ぎだ。
「ゾロー、ゾロ〜? あ、こんなところにいた。」
諸悪の根源が来たと、ゾロは苦笑いした。
済んだことだと、あっけらかんと笑い飛ばしたルフィ。
落ち着いてみたら、さっきの落とし物がズキッと主張をし始める。
「・・んだよ?」
「いや、悪かったと思って。ちゃんともう一度謝ろうと思ってさ。」
「別に謝っていらねえ。俺も勝手なことをした。もう済んだことだ。」
過去はもう元には戻らない。
何かを無くそうと崩そうと。
また積み上げていくだけのことだと。
そうムリヤリ思おうとしていた。
落としたことが・・・・何故だかひどく哀しくて。
今は、ひどく哀しくて。
何を落としたのかわからないが。
「済んだこと・・・だな。うん。でも、それだけじゃダメだろ?」
「は?」
「俺、ゾロを疑った。一瞬でも。そんな自分が許せない。
ゾロのこと知った気でいた。だから裏切られたって思った。
思ったら、もう何も考えられなかった。」
まっすぐ静かに語るルフィからゾロは目を離せなかった。
「何があっても。俺はゾロを信じてなくちゃダメなのに。
それが出来なかった。たとえ背後から刺されても。
それでも俺はゾロのこと信じてなくちゃいけないんだ。」
「お・・・・れはそんなマネしねえ。」
「うん、知ってる。たとえばだ。もう、疑わねえ。絶対に。
何があっても。ゾロ、信じてる。俺はもう迷わねえ。」
ゾロは喉の奥から、張り付いた声を絞り出した。
「か・・・・・・勝手に。勝手に納得してんじゃねえっ。」
ほとんど叫ぶように肩で息をしながら声を絞り出す。
空いた穴がギリギリと締め付けられた。
「ごめん、ゾロ。誕生日・・・おめでとう。」
ぎゅっと抱き締められて。
ゾロは目を閉じた。
ルフィのことに関しては。
すべてを受け入れるだけしかできないのだろうか。
「って、ルフィっ。何してやがる。」
「何って、エッチ。」
「・・・・もう一度、刀抜いていいか?」
ごそごそとシャツの中に手を入れているルフィに青筋を立てて
ゾロは怒鳴った。
考えるだけ無駄なんだろうか。
きっと考えなくてもいいのだろう。
答えはきっと落としたものの上にあるのだから。
「そうそうヤらせてたまるかっ。」
「えーっ、なんで? ゾロの誕生日なのに。」
「俺の誕生日とどう関係あるんだよ。」
「ゾロ好きだ。好きだから祝いたいのは当たり前だろ。」
先刻、死ねと言った口から、好きだと。
聞かされてもと思いつつ、でも。
泣きたいくらい安堵した自分に、ゾロは身体の力を抜いた。
やっぱり考えても無駄らしい。
「ゾロ?」
「・・・責任取りやがれ。」
なんの?と、一瞬不思議そうな顔をルフィはしたが、
ニッと笑うと、ゆっくりと口付けてきた。
「ゾロ、大好き。すっげぇ、好き。」
ルフィのぬくもりが。
今が昼間だということも、忘れさせてくれる。
「ルフィ・・・・」
そう簡単に何度も許していては、身が持たねえぞ・・・と
自分にツッコミつつ。
誕生日だからと、ゾロは諦めた。
自分に関しても考えても無駄・・・のようだ。
まだまだこれからなのだ。
ゆっくりと・・・・築いていこう。
−完−
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