「おい、ルフィ、ルフィ!」
「ん・・・・」
「ん、じゃねえ! 寝るなら、抜いて俺の上からどけ!!」
きしむ体を起こして、ゾロはルフィの耳元でどなった。
「うるせぇな、ゾロ。そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ。」
舌打ちして、ルフィが体を起こす。
ずるりと抜ける感覚に、ゾロはヒクッと喉を逸らした。
「んふっ・・・」
「ごちそうさま、ゾロ。」
その唇を軽くついばんで、ルフィがゾロの隣りにそのままコロリと横たわる。
「おい、ルフィ。寝るなら、あっちのベッド使え。」
「・・・・・。」
「・・・もう寝たのかよ。相変わらず寝つきのいい奴だな。」
人のことは言えないのだが、ゾロは苦笑した。
サイドボードに置いた酒をとりあえず飲み干して、ゾロは立ち上がった。
「流さなきゃな。いくらルフィの体力回復に付き合うからって、俺が
体崩してちゃ意味ねえ。」
安宿でも、とりあえず部屋にシャワーがあるのは、いい。
ゾロはシーツを身にまとって、シャワー室へ消えていった。
ここは、ムーンタワー。
冒険者達が集まる都市である。
登録・仲間集め・食料や武器や装備。
一式が、ほぼ揃うことで有名な街だ。
ルフィとゾロは一年旅をしてきて、溜まった経験地等のログや
MAPの更新などをしに、この街へ舞い戻ってきたのである。
といっても、ゾロはココには5年ぶりだったから、なんとも言い難い。
ルフィとは旅の途中で出会ったのだ。
半ば強引に、仲間にされて、でも。
それは運命みたいなものだと、ゾロは今では思っていた。
「っつっても、ルフィの体力回復がHだとは思わなかったけどな・・・。」
肉を食えば回復するのだ。と言っていたくせに。
好きだと告白され、半ばコレも流されて、体を重ねれば、翌日には怪我が
治っているというとんでもないバケモノぶりを見せられた。
『俺達、体の相性もバッチリ!だな。』
にっこり笑って言われて。
思いっきり殴り飛ばしたっけ。
シャワー室から出て、買い置きしておいた酒を一本飲み干す。
体が軽くなるのを感じ、ゾロはため息を吐いた。
ルフィに言わせると、酒と睡眠で体力が回復するのはおかしいらしいが。
「しょうがねえじゃないか。ったく。」
この街に戻ってこれたのは、奇跡に近いかもしれない。
二人とも、MAPが読めないのだ。
ルフィとも話していたが、どうやら、ナビ役を見つけて仲間に入れなければ
いけないようであった。
「旅の資金も足りねえしな。ここいらで、出発しねえと。
少しくらい食料も持っていかねえといけねえし。魔物の肉は不味くて
あんまし、食いたくねえんだよなぁ。」
とろりと睡魔が襲ってくる。
空いているきれいなベッドに潜り込むと、ゾロは目を閉じた。
「ゾロ、ゾーロ。起きねえと、朝から一発ヤるぞ。」
声とともに、するりと巻き付く手を感じて、ゾロはルフィの頭を殴りつけた。
「・・・ふざけたことしてんじゃねえ。」
「あ、なんだ、起きたのか。行かねえのか?」
「行く。ちょっと待てよ。てめえががっつくから、腰が痛てぇんだよ!」
「そっか? まあ、連日だったもんな。でも、ゾロが肉食うの止めた
からだろ?」
「・・・おまえ、食いすぎ。ちったぁ、金のことも考えやがれ。」
手早く身支度を整えて、ゾロはルフィと外へ出た。
「んで? ルフィ。おまえ、どんな奴を仲間にしたいんだよ。」
「音楽家がいいなぁ。」
「・・・あのな。役に立たねえ奴仲間にいれんじゃねえぞ!」
これ以上食いぶちが増えるのはありがたくない。
「待て、こら、てめえら!」
不意に呼び止められて、ゾロは振り返った。
「ああ? なんか、用か?」
「てめえらが俺達の縄張り荒らしやがったんだな!」
数人の男達に取り囲まれて、ゾロはため息を吐いた。
「なにがだ?」
「何がじゃねえ! 俺達が地道に攻略していた『呪いの濠城』てめえらが
勝手にクリアしたんだろうが!!」
ゾロはフッと笑みを口元に浮かべた。
「ソイツぁ、悪かったな。だが、攻略できもしねえのに、ちんたら遊んでる
奴等をかまうほど、暇じゃなかったんだ。」
「てめっ・・・」
殴り掛かってきた奴を避けて、刀を引き抜く。
ルフィが満面の笑みを浮かべた。
「な、ゾロ。ヤっちまっていいんだよな?」
「いいんじゃねえか? まあ、ほどほどにな。」
勝負は一分で片がついた。
キンッ・・・と刀を仕舞って。
不意に掛かった声に、その手にまた力を込めた。
「強いのね! あんたたち。」
「誰だ、おまえ?」
ルフィがきょとんとして、屋根から降りてきた女を見つめた。
「私はナミ。ね、私を仲間にしない?」
「・・・行こう、ルフィ。」
「おう。」
「あ、ちょっと待ってよ! ね、あんたたちでしょ?あの、難攻不落の『呪いの濠城』
落としたの。ちょっとした噂になってたわよ。」
「あー、そうかい。」
「あ、ゾロ。手から血が出てるぞ。」
「あ? ああ、さっき銃弾素手で叩き落としたからな。」
手首を取ってぺろりと舐めるルフィから、ゾロは手を取り返した。
「人前ではやるなと言ってんだろうが。後ろの女が凍ってるぞ。」
「ん? なんだ、おまえ。まだついてきてたのか?」
はたと我に返ったナミが慌てて近寄ってくる。
「あんたたちの関係なんか、別に興味ないわ。ねえ、どうやってあの城落としたの?」
「どうもこうもねえよ? 入り口から片っ端から、片づけていっただけだし。」
「ルフィが壁壊すから、大変だったんだろうが。階段まで壊しやがって。」
「なんだよ、ゾロだって。呪い解くのが面倒だとか言って、壁ぶち抜いて、
扉から入らなかったじゃねえかよ。」
「あ、あんたたち、一体・・・・?」
めちゃくちゃなダンジョンクリアに、ナミの顔が青ざめる。
「俺は、一番上の、コイツにだけ用があったんだ。後は別に興味なかったしな。」
一本の刀をグッと握り締めて、ゾロは嬉しげに笑った。
「それ・・・?」
「妖刀、『三代鬼徹』だ。あの城に封印されていた。」
「ゾロ、それも、呪い解かなかったもんな。『気に入らねえなら腕落とせ』って、
刀の下に腕置くから、俺、びっくりしたぞ。」
「落ちなかったんだから、コイツも俺を認めてくれたんだろ?いいじゃねえか。
済んだことだ。」
「・・・・ね。他の宝箱は?」
「あ? まあ、食い物系統は、コイツが匂いで分かるから開けたが、他は
手をつけてねえぞ。集まってきた奴等に勝手に持ってけって・・・うおっ」
ナミに胸ぐら捕まれて、ゾロはぎょっとした。
「あんたたち、間違ってるわ!! 宝取りに行って、宝持って帰らなかった
ですって?! なんて勿体無いことしてるのよっ。」
「ししし、おまえ、おもしろいな。称号なんだ? シーフか?」
「私? 私は、黒魔法師よ。」
「・・・ぴったりだな。おい、手、離せ。」
「あんたたちは何なのよ。あんたは、剣士でしょう? ・・・じゃあ、
ええと・・・ルフィ?あんたが勇者?」
「俺か? 俺は海賊だ!」
「・・・・は?」
ナミがきょとんとした。
手から力が抜け落ちる。
その肩をゾロはポンッと叩いた。
気持ちはよく分かるから。
「船も何もまだ持ってねえけどな! 俺は海へ出て、グランドラインを渡って。
ワンピースを手に入れて、海賊王になるんだ。」
「よ、よりにもよって、あのグランドラインへ航海しようってわけ?
命知らずね。で?海図か何か手に入れたの?」
「なんだ、それ。」
「コイツにそんなこといっても無駄だぜ? 陸のMAPも海のMAPの違いも
わかんねえんだからな。」
「なんだよ、ゾロ。ゾロだって、迷子だったじゃねえか!」
「うるせぇ!」
「・・・あんたたち、よくそれで生き残ってたわね。じゃあ、取引きしましょう。
私がグランドラインのMAPをあんたたちに提供してあげる。
その代わり、あんたたちが見つけた宝箱は私のモノ。
どう? 悪い条件じゃないでしょ?」
「・・・どこがだよ。」
「ちゃんと宿の手配も、食事もさせてあげるわよ。その分稼いでくれるならね。」
「おお!グランドラインのMAPがあるのか!!ししっしし。楽しみだな。」
「・・・ルフィがいいなら、俺は何も言わねえ。しかし、ハイエナみたいな
女だな。・・・って、イテテテテっ。」
「失礼なこと言わないでよ。それに、私にはナミって名前があるの。
・・・“海賊狩り”じゃなかったかしら? ロロノア・ゾロ?」
「・・・いろいろあんだよ。俺にも。」
「よーし!!んじゃ、準備して出発だ。“海と陸の堺”の街へ!」
かくして、ナミを仲間に加え、一行は旅立つのであった。
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